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大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)197号 決定 1963年11月19日

抗告人 王国明 外二名

相手方 宋純鐘

主文

債権者相手方、債務者抗告人三名間の神戸地方裁判所昭和三八年(モ)第一〇八九号収去命令等申請事件について同裁判所が昭和三八年八月三〇日なした決定を取り消す。

相手方の本件申請を却下する。

申請費用ならびに抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。

二、記録によると次の事実が認められる。相手方は抗告人王国明、同本多建設工業株式会社、申請外任美宋を債務者として本件土地につき神戸地方裁判所に対し仮処分を申請し(同裁判所昭和三七年(ヨ)第七三四号事件)、昭和三七年一一月二九日付、「債務者等の本件土地に対する占有を解いて、債権者の委任した執行吏にその保管を命ずる。執行吏はその現状を変更しないことを条件として債務者等にその使用を許さなければならない。但し、この場合においては、執行吏はその保管に係ることを公示するため適当の方法をとるべく、債務者等はこの占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。」旨の仮処分決定を得、また、抗告人三名を債務者として本件未完成建物につき、同裁判所に仮処分を申請し(同裁判所昭和三七年(ヨ)第七四七号事件)、昭和三七年一二月八日付、「本件未完成建物に対する債務者等の各占有を解いて債権者の委任する執行吏にその保管を命ずる(第一項)。執行吏は、各債務者の申出でがあるときは、その現状を変更しないことを条件として、申し出でた債務者にその従前占有部分の使用を許すことができる(第二項)。使用を許された債務者は当該物件について建築工事を続行してはならず、また占有の移転、占有名義の変更をしてはならない(第三項)。執行吏は第一項の趣旨を適当な方法で公示せよ。」との仮処分決定を得た。債権者は前者の仮処分につき昭和三七年一一月三〇日、後者の仮処分につき同年一二月一〇日、それぞれ執行手続きを完了した。ところが、抗告人らから前記仮処分につき異議の申立てがあり、同裁判所は右仮処分異議併合事件につき昭和三八年八月一二日、仮執行宣言付前記各仮処分決定取消しの判決の言渡しをしたので、抗告人らは、昭和三八年八月一三日、右二個の仮処分執行につきその取消手続きをなし、同日執行吏から本件各物件の還付を受けてその占有を回復した。その後相手方(債権者)は前記仮処分異議事件判決に対し控訴をするとともに、同月二〇日右判決に基づく仮執行につき停止決定を得、更に抗告人ら債務者が執行吏から本件建物の還付を受けたのちこれに対し加えた工事を前記仮処分により命せられた不作為義務に違反するとの理由のもとに、抗告人らのなしたものの除却および将来のための適当な処分を求める収去命令の申請をなし、同月三〇日原裁判所はこれを容れた原決定をなした。

三、しかし、抗告人らの本件仮処分による不作為義務は、抗告人らの本件物件に対する占有が執行吏に移され、執行吏の占有に基づき、同人からその使用を許されるについての遵守事項であつて、執行吏の占有とは独立して別個に命ぜられたものではないことは仮処分決定の文言に徴して疑いを容れない。ところで右仮処分は既に執行が取り消され執行吏は該物件を抗告人らに還付し、抗告人らはその占有を回復したのであるから、右仮処分執行の取消しにより抗告人らの不作為義務も同時にその基礎を失い消滅したといわなければならない。

四、そうすると、抗告人らの右不作為義務がなお存在するとの前提のもとに、その強制履行の方法としてなされた原決定は不当である。

よつて、民訴第四一四条、第三八六条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 平峯隆 大江健次郎 古崎慶長)

別紙

抗告の趣旨

債権者宋純鐘、債務者王国明、同林木宋、並びに同本多建設工業株式会社間の神戸地方裁判所昭和三八年(モ)第一〇八九号事件につき、同裁判所がなした決定はこれを取消す。

本件申請を却下する。

申請費用は相手方の負担とする。

との決定を求める。

抗告の理由

一、本件申請の理由は要するに神戸地方裁判所昭和三七年(ヨ)第七四七号仮処分申請事件につき、同年一二月八日発せられた仮処分命令第三項において、抗告人等に対し独立の不作為義務を課したものであり、右仮処分命令は同庁昭和三七年(モ)第一、六四八号、同第一、六七〇号併合仮処分異議事件につき、同三八年八月一三日なされた仮執行宣言附判決により、右仮処分命令は取消されたが、相手方の控訴申立並びにこれに基き、同年八月二〇日なされた強制執行停止決定並びに担保提供により、前記仮執行宣言附判決の効力は停止せられ、従つて抗告人等に対する前記不作為義務は依然として存在しているにも拘らず、抗告人等が右不作為義務に違反しているため、原決定の主文同旨の申請に及んだものである。

二、而して、原決定はその理由とするところは必ずしも明らかではないが、略申請理由と同旨によるものと考えられるが、元来、仮処分命令は密行性及び緊急性を必要とし、一方的疎明にて発せられるのが通常であり、これに対し仮処分異議訴訟は、既に発せられた仮処分命令の当否を再審査するため、口頭弁論を開き、略証明に近い程度の疎明をもつて審査を行い、その結果、仮処分命令の当否を論ずるものであつて、これが取消を命ずる判決は、仮処分命令申請段階に於ける審査の程度とはその密度と確度を異にするものである。

三、而も、右取消判決に対し、仮執行宣言が附された本件の如き場合に於ては、上訴審において原判決の取消をうける恐れがないとの裁判所の確信に基き行われるものであつて、仮執行宣言附判決の効力は、正に即時に仮処分命令なき状態を形成することを本旨とするものというべきである。従つて仮処分命令の趣旨が、執行吏保管等の事実的有形的のものであるか、或は又本件の如く不作為義務を設定する観念的のものであろうとも、その理を異にするものではない。

四、然るに、右仮執行宣言附判決に対する控訴提起の一事をもつて原判決の執行力の一時停止を認めることは、仮処分命令が前述の如く仮処分債権者の一方的申請のもとに仮処分債務者に多大の犠牲を払わしめる関係に徴し、全く不当であるといわざるをえない。即ち、仮処分訴訟の実質的構造よりすれば、異議訴訟における仮執行宣言附取消判決の効力を、控訴申立に基く執行停止により停止を認めることは、単に観念的な論理的妥当性を有するのみで、保全訴訟の実質と矛盾するものというべきである。仍つて原決定の取消並びに本件申請の却下を求めるため、即時抗告申立に及ぶ次第である。

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